伊耶那岐神(いざなぎのかみ)は最愛の妻である伊耶那美神(いざなみのかみ)を亡くされ一人悲しまれておりました。そして、
「どうしても今一度逢いたい!」
と、ついに亡き伊耶那美神(いざなみのかみ)を追い黄泉の国へと出掛けてしまわれました。
そして、黄泉の国につくと固く閉じられた御殿の扉が開き、伊耶那美神(いざなみのかみ)がお出迎えになられました。
伊耶那岐神(いざなぎのかみ)は、
「愛しき我が妻よ、私とあなたが作る国はまだ出来上がっていない。一緒に帰ろう」
と仰せになると、伊耶那美神(いざなみのかみ)はこう仰いました。
「私はとても悔しいのです。もう少し早くお迎えに来て下されば良かったのですが、残念ながら私は黄泉の国の食べ物を食べてしまいこの国の住人となってしまいました。しかし、あなた様がせっかくいらして下さったので、何とか帰りたいと思います。これから黄泉の国の神々と相談いたしますので、その間は、決してわたしの姿を見ないと約束して下さい」
と言い残し、御殿の扉を閉め中に戻ってしまわれました。
伊耶那岐神(いざなぎのかみ)はしばらくお待ちになっておりましたが、伊耶那美神(いざなみのかみ)はなかなか戻って来ません。
とうとう待ちきれなくなった伊耶那岐神(いざなぎのかみ)は、約束を破り御殿の中へと入られてしまわれました。
中に入るとそこは真っ暗闇ですぐ先も見えない程です。
そこで伊耶那岐神(いざなぎのかみ)は、左右に束ねた髪の左側に刺してあった湯津津間櫛(ゆつつまぐし:神聖な櫛)の男柱(櫛の両端の太い歯)を一本折り、そこに一つの火を灯しました。
そして、御殿の中に入っていくとなんとも世にも恐ろしい光景が目に飛び込んできました。
それは、体中に蛆(うじ)が湧き腐り、変わり果てた伊耶那美神(いざなみのかみ)のお姿だったのです。
さらには、その体のあちらこちらに恐ろしい八種の雷の神が成りでておりました。
頭には大雷(おおいかづち)、胸には火雷(ほのいかづち)、腹には黒雷(くろいかづち)、陰部には析雷(さくいかづち)、
左手には若雷(わかいかづち)、右手には土雷(つちいかづち)、左足には鳴雷(なるいかづち)、そして右足には伏雷(ふすいかずち)達がゴロゴロと鳴っています。
その悍(おぞ)ましい御姿に、伊耶那岐神(いざなぎのかみ)は大変驚いてしまい逃げ出してしまわれました。
すると、その醜い姿を見られた伊耶那美神(いざなみのかみ)は、
「私に恥をかかせたたな!」
と仰せになり、黄泉の国の醜女(しこめ:醜い化け女)である予母都志許売(よもつしこめ)に後を追わせたのです。