ある時、その大后の息長帯日売命(おきながたらしひめのみこと)は、帰神(かむかがり、かみよせ:(神懸かる・神憑る)神霊が人のからだに乗り移り話すこと)をされました。

仲哀天皇(ちゅうあいてんのう)が、筑紫の訶志比宮(かしひのみや)で熊曽国(くまそのくに:南九州)を討ち倒そうとした時、御琴(みこと)を弾き、

建内宿禰大臣(たけうちぼすくねのおおおみ)は沙庭(さには:神を祭り神託を受けるために忌み清めた庭)にて、神託を求めました。

この時に大后は帰神(かむかがり、かみよせ)をして、神託をお告げになりました。

「西の方に国あり。金銀をはじめとして、目の炎耀(かかや:輝)くような、種々(くさぐさ)の珍(うづ)の宝がその国に多くある。私が、今からその国を帰せ賜はむ(帰服させよう)」

*朝鮮半島の新羅国(しらぎのくに)のこと

その神託を聞いた天皇は、

「高い所に登り、西の方を見ても国土は見えない。そこにはただ大海が見えるだけだ」

と言い、偽りを言う神だと思い、弾いていた御琴(みこと)を押しやり弾くのを止め、黙たまま座ってしまいました。

すると、神託を授けたその神は激怒し、

「凡(ほおよ:およそ)この天下は、お前の知らす(治める)べき国にあらず。お前は一道(ひとみち:死へ向かう道)に向かえ」

とお告げになりました。

そこで、心配になった建内宿禰大臣(たけうちぼすくねのおおおみ)は、

「畏れ多いことですが、我が天皇よ。やはりその大御琴(おおみこと)を御弾きになって下さい」

と申し上げ、天皇の元へその琴をゆっくりと引き寄せました。

天皇は、渋々琴を再び御弾きになりましたが、間もなくすると琴の音が聞こえなくなりました。

そこで、火を灯して見てみると、既に天皇は崩御(ほうぎょ:天皇が亡くなる事)されていたのです。

天皇が、このように神の怒りに触れ呪い殺されたことに、周りの者達は驚き恐れ、その亡骸を殯宮(もがりみや:一時的に安置るす死体安置所のようなところ)に安置し、

さらに、穢れを祓うため大ぬさ(お供えする品)を国中から取りよせ、

生剥(いけはぎ:獣の皮を生きたまま剥ぐこと)、逆剥(さかはぎ:獣の皮を尻から剥ぐこと)、阿離(あはなち:田の畔を壊す行為)、溝埋(田の溝を埋める行為)、屎戸(くそへ:糞などの汚物で汚すこと)、

上通下通婚(おやこたわけ:近親相姦)、馬婚(うまたわけ:馬との性行)、牛婚(うしたわけ:牛との性行)、鶏婚(とりたわけ:鳥との性行)、犬婚(いぬたわけ:犬との性行)など様々な罪の類を調べ集め、

国の大祓(おおはらい)をして、また建内宿禰大臣(たけうちぼすくねのおおおみ)に沙庭に居て神託を求めました。

*神道においてこれらは罪の観念で天つ罪、国つ罪とされます。

すると、そのお告げは同じもので海の向こうの西の国にを制圧するものでした。

そして、

「およそ、この国はあなた(神功皇后(じんぐうこうごう))の御腹にいる御子が治める国である」

とも告げられました。

そこで、建内宿禰大臣(たけうちぼすくねのおおおみ)は、

「おそれ多いことです。我が大神、その神(神功皇后(じんぐうこうごう)が神がかっていたことから神と呼んでいる)の腹にいます御子は、男、女のどちらでしょうか?」

と申し上げると、大神、息長帯日売命(おきながたらしひめのみこと)は、

「男子である」

と答えました。

続けて、建内宿禰大臣(たけうちぼすくねのおおおみ)は、

「今、お告げを教えてくださる大神はどなた様なのか、名を知りたく思います」

と尋ねたところ、即、お答えになられました。

「これは、天照大神の御心(みこころ)である。そして、我は底筒男(そこつつのお)、中筒男(なかつつのお)、上筒男(うわつつのお)の三柱の大神である」

この時に、その三柱の大神の御名が明らかになり知ったのでした。

*天照大神と同じく、伊耶那岐命(いざなぎのかみ)の禊で成った神。住吉大社の御祭神(ごさいじん)の墨江大神(すみのえおおかみ:住吉三神(すみよしさんじん))です。

さらに、

「今、本当にその国(朝鮮半島)を求めようと思うのであれば、天神地祇(あまつかみくにつかみ:天地の神々)、また山の神と河の神、海の神にことごとく幣帛(みてぐら:木綿、麻などの神への供え物)を奉り、

我が御魂(みたま)を船の上に乗せて、真木(まき)の灰を瓠(ひさご: ひょうたん)に納め、また箸と葉盤(ひらで:柏の葉で出来た皿)を多に作り、

それらすべて大海に散らし浮けて、その上を度(わた)って行くのだ」

と告げました。

 

続きを読む 神功皇后(じんぐうこうごう)の新羅遠征